誰もが知っている玩具メーカーLEGOの危機と復権の歴史を見ながら、大企業がイノベーションを起こす際に陥る失敗と、継続的にイノベーションを起こすために何が必要かを学ぶ著作。

同社は2007年から2010以降にかけて、他の玩具メーカーを圧倒する利益率を叩き出し、アップルなどの革新的メーカーと比較されるようなイノベーティブな企業になっている。同社は30年以上続くレゴブロックの伝統を守りながらも、マインドストームやニンジャゴーといった、これまでにない製品やコンテンツを生み出し続けている。このように同社には、伝統と革新が共存し継続してイノベーションを創出する体制が備わっている。

同社が取り組んだ「イノベーションの7つの真理」には、今でこそ新鮮さは少ない。ブルーオーシャン戦略、人材のクリエイティヴィティと多様性、オープンなイノベーション、破壊的、全方位的イノベーション、といったものだ、恐らく日本でも大半の企業がその必要性を認識し、多くの企業が何らか取組みを始めていることと思う。それだけに、同社がこれらの取り組みに着手した時は、収益を上げるどころか身売り寸前まで追い込まれたと聞くと驚かれるかもしれない。創造的な外部デザイナーも、今までなかった組み立てないアクションフィギュアも、あらゆる面でイノベーティブだったデジタルレゴも、ブルーオーシャンを求めた教育玩具も、全て失敗に終わった。

原因は製品によって様々求められるだろう。だが根本にある要因は、同社がイノベーションを統制できなかったことにある。これまで経験のないイノベーティブな施策を一気に展開したために、それぞれの製品開発について、どのような製品を作るべきか、どのような顧客を相手にするべきか、つまりはどこを目指すべきなのかの方向を与えることが出来なかった。その結果これまでのファンや評価されていた部分まで否定し、ただただ斬新で革新的な「レゴではない何か」を作り続けていたのだ。こうした製品は新しい市場を開拓するどころか既存のファンからも見向きもされずに終わった。
こうした失敗を経て、LEGOのイノベーションへの取り組みも変わった。レゴらしさを明確にし、目指すべきイノベーションの方向づけを行い、また適切にファンという群衆の力を取り込みながら、7つの真理を少しずつ前進させた結果、レゴユニバースで失敗を経験しつつも、復権を果たし先述の通り愛される革新的な製品を継続して生み出す体制を確立する事に成功している。

日本でもイノベーションの必要性が叫ばれて久しい。とりわけディスラプターの登場により市場を奪われる危機感を抱いた企業が、今までに無い何かを求めてイノベーション創出に着手し始めるケースは枚挙にいとまがない。かつてのLEGOの取り組みも、テレビゲームに子どもを奪われるという危機感から着手されたものだった。しかし、明確なヴィジョンもないまま安易にイノベーションに期待するべきではないことは、本書でLEGOの失敗を見ていただければわかるだろう。明確な方向性のなくらしさを見失い、ただ斬新さと革新性を追求するのは部の悪い賭けに他ならない。イノベーションを継続させるには、「創造と統制」を両立させることが求められる。現代的デザインでありながらも伝統的なレゴであることを想起させる、クリエイティヴな人材には自由と監督を与え、高度なスキルを持つファンを開発に参加させても決定権は自社でにぎる。破壊的である事、枠を壊すことを第一に目指すのではなく、自分たちの事業や提供したい価値、目指すべき方向を明確にした上で、その範囲内で全く新しいことを発想するという、相反することが求められているのだ。

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