#文学は何の役に立つのか? #flierbooklabo
【本記事は、OSIRO社のコミュニティ献本企画に参加し、献本を受けて執筆しました】
平野啓一郎著
『文学はなんの役に立つのか』 を読んで
「いったい文学は何の役に立つんですか」と問われて、著者は「今の世の中で正気を保つため」と答えているという。この回答は意外だった。文学や美の世界にいっとき留まらなければ正気を保てないほど、この世の中は狂っているのか。
著者の映画化された作品「ある男」「マチネの終わりに」や「空白をうめなさい」を見たことがあった。単純に面白いと思った。そして、こんなストーリーを考えつく小説家は、軽快に生きている人かと考えていた。
改めて映画を見直した。作品には世の中の理不尽な差別など気が重くなる内容がいくつも含まれていた。個人ではどうしようもない問題は、見る目を持って見ればどんどん見えてくる。見えている作者はさぞかし心が痛いだろう。
私は腹を満たすだけで精一杯の時期が多かった。書籍はあまり買わず、世の中のしくみについても、正面から受け止めて真剣に考えてこなかった。
今、視点を広げて世の中を見渡せば…。
ほぼ1週間、映画を見、本を読み、考え続けた。頭がおかしくなってくる感じ、脳内でアラートが鳴った。辛い、危険だ、考えることをやめたい。
なるほど、
『文学作品を読むということは、僕にとっては精神的な健康を保つ、有効な手段になっています。(p. 4)』
に合点がいく。
同時に、著者やすべての人に、何に逃げ込んでもいいから、病まないで正気を保って生きのびてほしいと思った。
この本は、私にとって大変読みごたえのあるものだった。小説家という人たちは、読んだり見たりしたものをこんなにも深く記憶しているものなのか、世の中はこんなにカタカナ語が普通に使われているのか…。1ページにつき1回は辞書を引きながら読み進めた。
今まで、色々とサボっていたことを突きつけられた1冊だった。

2025/07/25 15:12