フライヤーが主催するオンラインコミュニティflier book laboでは、さまざまな会員限定サービスを提供しています。その魅力をちょっとだけ体験していただける無料のランチタイムセッションが、2025年1月17日に開催されました。
ゲストスピーカーは、オンライン講座「flier book camp」で講師を務めてくださる谷川嘉浩さんです。谷川嘉浩さんが1月より担当する講座は、題して「「これからの自分」を育てる衝動の探究~自分の情熱を言語化したオリジナル冊子をつくろう~」。
今回のセッションでは、株式会社フライヤーで「flier book camp」企画運営を担当する久保彩のファシリテーションで、プログラムの内容を先取りしてご紹介いただきました!
【スピーカー】
京都市在住の哲学者 谷川嘉浩 氏
株式会社フライヤー 執行役員CCO 久保彩 氏
▼セミナーでご紹介した実践講座の詳細・申込みはこちら(1/25〆切)
▼要点
・衝動とは、モチベーションという言葉では取り扱いきれない、合理的に説明できないほどの過剰な原動力。
・物語の登場人物の衝動に注目してみる、自分が空気が読めなかった・浮いてしまった出来事を振り返るなど、様々な衝動のみつけかたがある。
・自分の衝動を言語化できるようになると、自分の取り扱い方を理解したり、自分を愛せることにつながる。
衝動とは、説明できないほどの過剰な原動力
久保彩氏(以下、久保):谷川さんは昨年『人生のレールを外れる衝動のみつけかた』を出版されましたよね。出版された上での反響や、書かれた背景について改めてお伺いできますか。
谷川嘉浩氏(以下、谷川):おかげさまでベテラン層から若年層まで、様々な方に読んでいただいています。「自分は衝動のようなものを持っていた」と気づいたり、これまでの自分のキャリアを振り返って「これで良かった」と確認できたり、そんな読み方をしていただいている印象があります。
書いた背景で言うと、何十年後の未来を明確に想像して、そこに向けて頑張るというキャリアデザインへの疑問からです。未来の自分が今と全く変わらない欲求や考えを持っていることを前提にしているし、未来が一番大事になって、それまでのプロセスがすべて消化試合になってしまうんですよね。
人の考え方は簡単に変わるので、いざ目標を達成した時にはもうそんなに興味がなかったり、「自分のやりたいことではなかった」と思ったりすることもあると思います。プロセスにも達成した後の自分にも愛着を抱けないとなったら、何が残るんだろうと。だから「衝動」という概念を提示したかったんです。
久保:目標がエネルギーになることもありますが、目標に到達することしか見えなくなり、それ以外の時間を無駄だと削ぎ落としていった結果、大切なものを失っていたと気づくこともありますよね。
では、谷川さんの考える「衝動」とはどのようなものなのでしょうか。
谷川:モチベーションという言葉では取り扱いきれない、過剰な原動力のことを「衝動」と呼んでいます。モチベーションは「やりたいからやっている」とある程度合理的に説明がつくものだと思います。例えば、蟻を何分間もじっと見つめている子どもを見て「モチベーションが高い」とは思わないですよね。「なぜそこまでやるんだろう」と周りが思ってしまうような人の原動力は、単なるモチベーション以上のものがあると思っています。
久保:なるほど。誰もが子どもの頃はそういう衝動を持っていた気がしますが、大人になってだんだん感じにくくなったり、自分よりも他者や会社の要求に応じるようになったりすると思います。それはどうしてなのでしょうか。
谷川:例えば学校の授業で算数にとても情熱を抱いている小学生がいたとしても、時間になったら国語の授業に切り替えなければなりませんよね。もちろんそれは大事なことではあるのですが、「今はこれをする時間だからそれはしないでね」「今は話すタイミングではないから皆に合わせてね」など、小さい頃から様々な場面で訓練されてきているんだろうなと思います。
特にビジネスパーソンだと、衝動をセーブしなければならない場面も多いと思うのですが、自分や他者の衝動を面白がることができれば、もう少し表に出しやすいのかなと思いますね。
久保:衝動を受け止め合う文化形成において、自分自身の「面白い」という感覚はとても大事かもしれないですね。仕事をしていると会社や社会の求める価値基準の「良い」になっていることがあると思います。
谷川:無意識に自分で自分を抑圧していることもあると思うので、衝動を探求することが、空気を読んでいる自分に気づいたり、そこまで空気を読まなくていいんだと気づくきっかけにもなると良いなと思っています。
衝動を探求することで、自分を愛せるようになる
久保:どうやって自分の衝動を発見していくのか、具体的な方法について教えていただけますでしょうか。
谷川:講座のDAY2で行う予定なのですが、まずは物語に出てくる衝動に注目してみると良いと思っています。物語では登場人物の衝動が抑圧されていて、それを抑圧しなくても良いことに気づくといった展開が多いんですね。他者の衝動を観察して面白がることから始めると、自分の衝動が振り返りやすくなると思っています。また、「こういう角度で衝動を抱く人もいるんだ」「こういうことにも衝動を抱いていいんだ」とバリエーションを増やすのも大事だと思います。
久保:まずは観察に慣れることから始めるんですね。講座のDAY1で取り上げる「なぜか浮いてしまったこと」、「空気が読めなかった」と思う出来事を振り返るのも面白いですよね。
谷川:浮いてしまった、空気が読めなかった瞬間は、他人の目に関係なく自分が出ている瞬間でもあるので、そこに衝動が現れている可能性があると思っています。
久保:他の受講生の方と一緒に取り組むことで、また新しい発見がありそうですよね。DAY3で作成する「欲望年表」はどのようなものでしょうか。
谷川:誕生や大学入学など具体的な事実の年表に、この頃はゲームにハマっていた、新製品を買うために朝から並んだ、というような欲望の年表を付け加えていくんです。個人史を作成した後に社会の年表も作成し、自分の欲望がどのようなパターンで現れるかを考えたいと思っています。例えば私は90年代生まれなのですが、90年代はアニメが流行したり、パソコンが一家に一台置かれ始めたりする時代だったので、その時代背景が自分の欲望を作っていると感じます。社会の出来事と照らし合わせることで、興味を持った経緯がよくわかると思います。
久保:様々な角度から自分の衝動を掘り下げることができますね。衝動を探求する意義についてはどう考えますか。
谷川:自分をどのように乗りこなせばいいかがわかると、生活に張り合いが出る気がしています。また、空気を読めない自分、浮いてしまった自分も愛せるようになるのではないかと思っています。
お互いに面白がりながら、衝動を育てる4ヶ月間
久保:講座では最後に「ZINE(ジン)」を作成すると思うのですが、初めて聞く方もいるかもしれません。どういうものかお話しいただけますか。
谷川:「ZINE」は小冊子のことで、自分の欲望に対する取り扱い説明書のような形で作ってみたいと思っています。作るプロセスでも自分が見えてくると思っていて、中身、紙質、形状など、こだわりにもそれぞれ偏りが出ると面白いですよね。もちろん講座内で作り方はレクチャーしますし、スライドでの作成もOKなので作るのが苦手な方もご安心いただければと思います。最近出た塚田ゆうたさんの『RIOT』(小学館) という漫画が、ZINEを扱っているので雰囲気が知りたい方はちょうどいいかもしれません。
久保:最後にお互いが作ったものを見せ合い、面白がるというのはなかなかない体験ですよね。
谷川:そうですね。大人にとって、部活や文化祭のような瞬間が大事だと思っています。誰かのため、何かのためにやっているわけではない時間、何をやっても良い場所を作りたいですね。
衝動は心の中で静かにふつふつと湧き上がってくるものだと思っていますが、自分の心の内をただ単にモニタリングするだけだとわからないんですよね。自分の小さな衝動の芽生えを、他者から面白がってもらったり、違う角度から焦点を当てたりすることで、育てられる機会になると良いなと思っています。
久保:衝動を発見する機会でもあり、育てる機会にもなるんですね。最後に、どのような方に来ていただきたいですか。
谷川:言葉にすることが必ずしも得意ではない人にもぜひ参加していただきたいです。他者との議論を通じて自分の言葉が生まれることもあると思うので、議論するのが苦手な方にもぜひ参加してもらえると嬉しいです。
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谷川嘉浩(たにがわ よしひろ)
1990年生。京都市立芸術大学美術学部デザイン科デザインB専攻講師。京都大学大学院人間・環境学研究科博士後期課程修了。博士(人間・環境学)。哲学者としてアメリカ哲学を専門としながら、メディア論や社会学、教育学の研究にも携わる。大学では制作指導を担当しているほか、デザイナーたちと作品制作や展示活動も行う。著書に『スマホ時代の哲学』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)、『〈京大発〉専門分野の越え方』(ナカニシヤ出版)、『ネガティヴ・ケイパビリティで生きる』(さくら舎)、『信仰と想像力の哲学』(勁草書房)、『鶴見俊輔の言葉と倫理』(人文書院)、『「今どきの若者」のリアル』(PHP出版)など。翻訳にマーティン・ハマーズリー『質的社会調査のジレンマ』(勁草書房)など。
久保彩(くぼ あや)
株式会社フライヤー 執行役員CCO(Chief Customer Officer)
カスタマーエンゲージメントDiv ゼネラルマネジャー
大学卒業後、大手メーカーにてシステム開発の企画・開発・PJマネジメントに携わる。その後、総合系コンサルティング・ファームで大手企業の新規事業/新規サービスの企画・立上・展開を担いながらMBAを取得。2020年よりフライヤーの新規事業担当 執行役員に就任。読書の新しい価値を追求するコミュニティflier book labo、本から深く学ぶflier book camp企画運営責任者。
2023年1月よりカスタマーサクセス責任者兼務。
2024年3月よりCCO就任。
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