フライヤーが主催するオンラインコミュニティflier book laboでは、さまざまな会員限定サービスを提供しています。その魅力をちょっとだけ体験していただける無料のランチタイムセッションが、2024年11月19日に開催されました。
ゲストスピーカーは、オンライン講座「flier book camp」で講師を務めてくださる近内悠太さんです。近内悠太さんが12月より担当する講座は、題して「言語化力の正体〜心を整える哲学の部屋〜」。
今回のセッションでは、株式会社フライヤーで「flier book camp」企画運営を担当する久保彩のファシリテーションで、プログラムの内容を先取りしてご紹介いただきました!
【スピーカー】
教育者・哲学研究者 近内悠太 氏
株式会社フライヤー 執行役員CCO 久保彩 氏
メタファーとは言葉と言葉を繋ぐもの
久保彩氏(以下、久保):今回のセミナーや講座のテーマを「言語化」にされた理由について教えていただけますでしょうか。
近内悠太氏(以下、近内):言語化、言語表現の一手法である「メタファー」に人間の心や認識が詰まっていると思っています。ある意味、メタファーが言葉の本質であるという思いから、今回のテーマとして取り上げました。言語化には2つの側面があると思っていて、1つは「分ける作用」で、もう1つは「繋ぐ作用」。皆さんが普段行っている言語化は分ける作用なんですね。例えば利他とケアという概念があるとして、「ケア」と「ケアでないもの」、「利他」と「利他でないもの」を分けることによって理解するのが分ける作用です。もう1つの繋ぐ作用がまさにメタファーなのですが、例えば「キャリア」という言葉の語源は、車の通った跡という意味の「轍」から来ているそうです。物理的に認識できる「轍」と、抽象的で目に見えない「キャリア」という言葉を繋ぐことによって、皆の中で共通のイメージを持てるんです。「表情が固い」「頭が固い」とかも実際に触れたり見たりする物理的な固さではないのに共通のイメージができますよね。メタファーを使うことで、日本語や英語などの言語に依存せずにイメージをわかりやすく届けることができるんです。
久保:今回の講座のテーマ書籍の一つである『メタファー思考』でも、一つの概念を英語や日本語、その他の言語でも言語化してると書かれていましたね。イメージが早くよく伝わるのがメタファーなのであれば、ビジネスシーンで言うと、例えばリーダーがメンバーに対して自分たちのビジョンを言語化して伝えるといった時にも、メタファーが使えるのかもしれません。
「言語化」について今学ぶべき理由とは
久保:「言語化」についてなぜ今学ぶべきなのか、近内さんのお考えを伺えますでしょうか。
近内:人間ならではの物事の捉え方である言語化やメタファーを理解していくことによって、なぜ人間は傷つくのか考えたいと思っています。犬や猫と違って、なぜ人間は精神的に傷つくのだろうかと考えた時に、おそらくこの世界を言語的に把握していることに由来するだろうなと感じました。例えばダニは嗅覚や触覚など乏しい情報しか感知できない。一方で人間は、見たものを見たままではなく、物語的、メタファー的に捉えているんですよね。言い換えれば、出来事の意味を感じるということです。傷や絶望と同時に、感動や喜び、美しさなどをなぜ人間だけ理解できるのか。それを考える際の一つのキーワードが、人間だけが言語を持っていることだと思います。言語は私たちにとって良い働きもある一方で、私たちを閉じ込めるものでもあるのだろうなと感じています。
久保:近内さんのご著書である『世界は贈与でできている』や『利他・ケア・傷の倫理学』にもありますが、傷について理解することでいかにセルフケアや他者のケアができるかに帰着するんですね。
近内:そうですね。傷から癒されていく、傷含めて私の人生であるとちゃんと悟ることがウェルビーイングに繋がっていくと思うので、その点に関心がありますね。
久保:参加者の方からは言語化について「頭に浮かんでいることを相手に伝わるように上手に表現できない時がある」というコメントをいただいております。
近内:個人的には、言葉にする以前に自分の中に明確な感情があるという捉え方はあまり正しくないと思っています。紀貫之が言った「心余りて言葉足らず」という表現があるのですが、これは言葉にした時にこの言葉では追いつかない、心が余っていると自覚しているんですね。心があるから言葉にするのではなくて、言葉にしてみて、その言葉がふさわしいかどうかで事後的に自分の心が明確な形になる。自分の心にふさわしい言葉を作ろうとすると、自分の心が蔑ろにされるんです。言葉にすることは自分の心や相手の心を正しく知るための道であり、本当は言葉よりも心の方が大事だと思っています。
本をきっかけに自分の心を理解する
久保:近内さんの講座は今回で9回目になりますが、まさに言語化をしていく講座だなと思っています。前回の講座でも、『マチネの終わりに』を取り上げて、恋や愛とは何か言語化することに皆さんチャレンジされていましたね。
近内:相手の本の感想に対して「それってどういうこと?」と受講生同士で言い合うことで「なんで私はこう思ったんだろう」と自分の感情をメタ認知することができるんですよね。共通の本を読んだ上で皆で話し合ってみると、微妙な言葉や認識のずれがあって、そのずれを言葉で補強しようとすることで、自分が思っていたことや感じていたことが徐々に形作られていくと思います。
久保:最初に近内さんがおっしゃっていた、言語化の2つの作用である「分ける」と「繋ぐ」も、他者がいていくつかの見方が存在することによって行われますよね。
近内:そうですね。正しく素早く理解するのではなく、誤解かもしれないけど相手と触発し合って、自分の中で繋がる。慣れてくると一人でもできますが、なかなかやる余裕と時間がないですよね。それにゼロから自由に話そうとしても対話は深まらないので、何らか共通のテーマが必要だと思います。講座では1ヶ月に1冊本を指定していて、皆で共通の本を読んだ上で対話していく形になります。
久保:今回の講座で取り上げるのは、DAY1が『メタファー思考』、DAY2が『アナロジー思考』、DAY3は『村上春樹、河合隼雄に会いにいく』、DAY4は『女のいない男たち』『東京奇譚集』と村上春樹さんの短編集ですね。
こういう本を今までしっかり読めていなかった、皆で一緒に読んで感想を共有し合うのが楽しそうと思う方はもちろん、言語化やメタファーを紐解く中で認識をアップデートしたい、人間の本質について深く考えてみたい方にもおすすめですね。また、本を読んで感じたことを人と話すことで言語化力も身につくかもしれませんね。近内さんはどんな方に来ていただきたいですか?
近内:世の中で言われている「言語化」「言葉」に対して何か違う気がすると違和感を感じている方はぜひ来ていただきたいと思っています。特に違和感はなく単純な好奇心からでももちろん大歓迎です。本をきっかけに人の話を聞いたり、聞いてもらったりすることや、自分の言葉を伝えながら、自分の心を理解していくことをしたい方はぜひ参加していただきたいです。
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近内悠太(ちかうち ゆうた)
1985年生まれ。教育者・哲学研究者で、リベラルアーツを主軸にした統合型学習塾「知窓学舎」講師。専門はウィトゲンシュタイン哲学。
デビュー著書は『世界は贈与でできている:資本主義の「すきま」を埋める倫理学』(第29回山本七平賞 奨励賞、紀伊國屋じんぶん大賞2021 第5位/2020年3月13日発売)。
久保彩(くぼ あや)
株式会社フライヤー 執行役員CCO(Chief Customer Officer)
カスタマーエンゲージメントDiv ゼネラルマネジャー
大学卒業後、大手メーカーにてシステム開発の企画・開発・PJマネジメントに携わる。その後、総合系コンサルティング・ファームで大手企業の新規事業/新規サービスの企画・立上・展開を担いながらMBAを取得。2020年よりフライヤーの新規事業担当 執行役員に就任。読書の新しい価値を追求するコミュニティflier book labo、本から深く学ぶflier book camp企画運営責任者。
2023年1月よりカスタマーサクセス責任者兼務。
2024年3月よりCCO就任。
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