フライヤーが主催するオンラインコミュニティflier book laboでは、さまざまな会員限定サービスを提供しています。その魅力をちょっとだけ体験していただける無料のランチタイムセッションが、2025年3月7日に開催されました。
ゲストスピーカーは、オンライン講座「flier book camp」で講師を務めてくださるドミニク・チェンさんと渡邉康太郎さんです。お二人が4月より担当する講座は、題して『「わたし(たち)は出会いなおす」―微かな記憶から意味を紡ぐワークショップ 』。
今回のセッションでは、株式会社フライヤーで「flier book camp」企画運営を担当する久保彩のファシリテーションで、プログラムの内容を先取りしてご紹介いただきました!
【スピーカー】
情報学研究者/早稲田大学文学学術院教授 ドミニク・チェン 氏
Takramコンテクストデザイナー/東北芸術工科大学客員教授 渡邉康太郎 氏
株式会社フライヤー 執行役員CCO 久保彩 氏
▼セミナーでご紹介した実践講座の詳細・申込みはこちら(3/25〆切)
▼要点
・私たちは無意識に「こうあらねばならない、こうせねばならない」と思い込んでいる支配的な物語(ドミナント・ストーリー)にとらわれている。
・とらわれに自然と気づくのは難しいが、最近気になっていることや、違和感を感じたことなどから気づきに近づく方法もある。
・自らを支配する物語から外れて、別の捉え方や意味づけに至ることを、ここでは「出会いなおす」と呼ぶ。
私たちは無意識にドミナント・ストーリーにとらわれている
久保彩氏(以下、久保):ドミニクさんと渡邉さんの講座は今回が2回目ですね。前回は「観察」「オートエスノグラフィー」というテーマでしたが、今回は「出会いなおす」「意味を紡ぐ」というテーマとなっています。今回、このテーマにされた理由についてお伺いできますでしょうか。
ドミニク・チェン氏(以下、ドミニク):今回のテーマは、昨年のテーマを別の切り口から語ってみたものになっていると思います。前回、参加者の皆さんには踊る、絵を描く、子育てなど自分の拙いことを観察・記録していただきました。そこでは、自分が拙いと思い込んでいることに対して捉えなおしが起こっていました。例えば、子育てが苦手だと思っていたけどイメージが変わった、踊りや絵が下手だから上手になりたいと思っていたけど、上手になるという目的に引きずられてやっていたと気づいたなど。上手にならなくても、それをやっている時間や自分が好き、とリフレーミングが起こる。それが「出会いなおし」と言えるのではないかと思っています。
渡邉康太郎氏(以下、渡邉):世の中のドミナント・ストーリー(こうあらねばならない、こうせねばならない、と思い込んでいる支配的な物語)の一つとして、「スキルを磨くのは良いことだ」というものがあると思います。上達には良い面もある一方で、時には苦しくもありますよね。だから、たとえば趣味を始めるとき、上手くなろうという思い以外にもモチベーションを見出す方法はないかと考えました。稚拙でも良いから自分のそのときの状態を見つめて、ただ記録をつけるのを目的にするのはどうか。記録そのものを楽しむことで、上達や成長とは別に、継続のモチベーションにできるのではないかという仮説があったんです。
ドミニク:今回の講座を企画する上でもキーワードとして出てきたのが、「ドミナント・ストーリー」でした。社会常識、社会通念に抑圧され、本当はもっと違う側面から感じたいのに、社会的に期待される成果やアウトプットに縛られている。そういった無意識にとらわれているものを解きほぐしていきたいと考えています。
「出会いなおす」というキーワードは、批評家スーザン・ソンタグの『私は生まれなおしている 日記とノート 1947-1963 』という本の題名にインスパイアされているんです。この本自体が、ソンタグが少女から大人になる時期に、自分が出会ってきた様々なものの振り返りを通して、変化していくプロセスとなっています。それを「生まれなおす」と表現しているんですね。そこから「出会いなおす」というイメージを膨らませました。例えば昨年と今の自分を比べてみて、あまり変わってない、成長できていないと感じることもあると思います。そういった社会に求められている「成長」というドミナント・ストーリーではなく、実は日々生活しているだけで小さな生まれなおしを経験していると思うんですよね。誰にでもわかりやすい魅力的なストーリーを生きようという方向性ではなく、何も起こらない、もしかしたらとてもつまらない日々の生活の中に鉱脈があり、それを表現することを通じて「生まれなおし」が発生するのではないかと思っています。
日常の問いや違和感からドミナント・ストーリーを見つける
渡邉:ドミナント・ストーリーの対比として、オルタナティブ・ストーリーがあります。たとえば人からの言葉や作品との出会いなどをきっかけに、それまでと物語の捉え方が変わり、自分が持っている支配的な物語から外れた、別の捉え方や解釈ができることがある。今回の講座では、ある方法やテーマに沿って、自分を支配しているドミナント・ストーリーを見出す。そしてその捉え方を変えるオルタナティブ・ストーリーを紡ぎ、自分と出会いなおすことをやりたいと考えています。
久保:自分の中にあるドミナント・ストーリーに自覚的になるのが難しそうですが、どのように気づくものなのでしょうか。
ドミニク:「あなたのドミナント・ストーリーは何ですか?」と茫漠と始めるのではなく、最近気になっていることやハマっていること、考えるのをやめられないこと、違和感を感じたことなどを掘り返すことから始めようかなと思っています。
例えば私の場合だと、一年半前に親しい友人が病気で亡くなったんです。その友人をどう弔っていけるかが自分の中の一つのテーマになったのですが、周りの人たちと話をする中で、「人を弔うこと」に対して自分のドミナント・ストーリーがあったことに気づいたんですね。仏教の「成仏する」という言葉に対して、死者との関係性に終止符を打ってしまうのではないか、それはまだ早いという思いがありました。じゃあどういう言葉や死者との付き合い方があるんだろうとリサーチしていた中で、その友達がお葬式をした神式だと亡くなった人が神様になることを知りました。友達が神様になったと思ったらいつでも会えるような気がして、まさに亡くなった友達との出会いなおしがありました。
選択肢が一つしかないドミナント・ストーリーで、特に問題がない場合もあると思います。私はもう少し違う選択肢がないか気になって探していくうちに、オルタナティブ・ストーリーが見つかって息がしやすくなったという感覚がありました。
「出会いなおし」を皆で持ち寄り、語り合うことで気づきがある
久保:今回の講座では、4ヶ月間でどのようなことをしていくのでしょうか。
渡邉:DAY1では、皆さんに意図をしっかり伝えようと思っています。先ほどの話にもあったように、そもそもドミナント・ストーリーとはなにか、それに気づけるのかといったところですね。ビジネスの世界や家族関係でとらわれていることでもよいし、ほかにも例えば昔読んだ小説や漫画の解釈などでも良いと思っています。
DAY2では、参加者の皆さんに色々な「出会いなおし」を持ち寄ってもらい、語り合うことができればと思います。
ドミニク:今回は出会いなおしを生むための一つの方法として、皆さんに「反省的ジャーナリング」をやっていただきます。ジャーナリングは日々起こったことの記録ですが、日記と違うのは、ただ事実を書くだけではなく、事実の中に潜む自分の心の動きも書いていくことです。いわゆる反省ではなく、起こったことに対してもう一回振り返って考えた上で書いていくメソッドになります。
DAY3ではその方法論を深めつつ、複数の対象とする記憶体験を徐々に絞っていき、最終的に一つに絞り込む作業をやっていきます。
久保:一人ではなく、皆でやるからこそ気づきが多そうですね。
ドミニク:そうですね。月に一回皆で持ち寄って語り合うのがとても大事だと思っています。話すことで言語化できますし、他の人の物語を聞くことで自分のドミナント・ストーリーが揺れ動いたり、変わっていったりすることもあると思います。
そして最終的には皆さんにエッセイを書いていただき、一冊のZINEにして今年の11月の文学フリマに出したいと思っています。
久保:とても楽しそうですね。ドミニクさんと渡邉さんも書かれるんでしょうか。
ドミニク:もちろん書きます。私と渡邉さんでブックデザイン、編集もしたいと思っています。
久保:ドミニクさんと渡邉さんとの共編著とは、贅沢な機会ですね。最後に、お二人から受講を迷われている方に向けて一言ずついただいてもよろしいでしょうか。
渡邉:わからないと思うこともあるかもしれませんが、その謎ごと一緒に楽しめたら良いかなと思っています。職場や友人同士の関係ともまた違った第三の場のような、他にはなかなかない刺激的な場になると思うので、一緒に楽しめたら嬉しいです。
ドミニク:日常生活の些細な問いやテーマ、ちょっとした違和感を深掘りしていくことができたらと思っています。私も渡邉さんも当事者として皆さんと一緒にやっていきます。日常生活の鉱脈を一緒に探せたらと思うので、よろしければぜひご一緒しましょう。
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ドミニク・チェン
情報学研究者/早稲田大学文学学術院教授
博士(学際情報学)。NTT InterCommunication Center[ICC]研究員, 株式会社ディヴィデュアル共同創業者を経て、現在は早稲田大学文学学術院教授。カリフォルニア大学ロサンゼルス校(UCLA)Design/MediaArts専攻を卒業した後、NPOクリエイティブ・コモンズ・ジャパン(現・コモンスフィア)を仲間と立ち上げ、自由なインターネット文化の醸成に努めてきた。現在は人と微生物が会話できるぬか床発酵ロボット『NukabBot』(Ferment Media Research)を開発するほか、不特定多数の遺言の執筆プロセスを集めたインスタレーション『Last Words / TypeTrace』(dividual inc.)を制作し、国内外で展示を行いながら、テクノロジーと人間、そして自然存在の関係性を研究している。著書に『未来をつくる言葉―わかりあえなさをつなぐために』(新潮社)など、監訳書に『メタファーとしての発酵』(オライリー・ジャパン)など多数。
渡邉康太郎(わたなべ こうたろう)
Takramコンテクストデザイナー / 東北芸術工科大学客員教授
使い手が作り手に、消費者が表現者に変化することを促す「コンテクストデザイン」を掲げ活動。組織のミッション・ビジョン・パーパス策定からアートプロジェクトまで幅広く牽引。関心事は人文学とビジネス、デザインの接続。主な仕事にISSEY MIYAKE の花と手紙のギフト「FLORIOGRAPHY」、一冊だけの本屋「森岡書店」、北里研究所、日本経済新聞社やJ-WAVE のブランディングなど。同局のラジオ番組「TAKRAM RADIO」ナビゲーターを6年半に渡り務めた。著書『コンテクストデザイン』は青山ブックセンターにて総合売上1位を記録(2022年)。趣味は茶道、茶名は仙康宗達。大日本茶道学会正教授。Podcast「超相対性理論」パーソナリティ。国内外のデザイン賞の受賞多数。また独iF Design Award、日本空間デザイン賞などの審査員を歴任。2019-2024年のあいだ慶應義塾大学SFC特別招聘教授。
書籍『コンテクストデザイン』
https://aoyamabc.jp/products/context-design
久保彩(くぼ あや)
株式会社フライヤー 執行役員CCO(Chief Customer Officer)
カスタマーエンゲージメントDiv ゼネラルマネジャー
大学卒業後、大手メーカーにてシステム開発の企画・開発・PJマネジメントに携わる。その後、総合系コンサルティング・ファームで大手企業の新規事業/新規サービスの企画・立上・展開を担いながらMBAを取得。2020年よりフライヤーの新規事業担当 執行役員に就任。読書の新しい価値を追求するコミュニティflier book labo、本から深く学ぶflier book camp企画運営責任者。
2023年1月よりカスタマーサクセス責任者兼務。
2024年3月よりCCO就任。