フライヤーが主催するオンラインコミュニティflier book laboでは、さまざまな会員限定サービスを提供しています。その魅力をちょっとだけ体験していただける無料のランチタイムセッションが、2024年7月12日に開催されました。

ゲストスピーカーは、オンライン講座「flier book camp」で講師を務めてくださる近内悠太さんです。近内悠太さんが7月より担当する講座は、題して「利他とセルフケアを哲学する〜心を整える哲学の部屋〜」。

今回のセッションでは、株式会社フライヤーで「flier book camp」企画運営を担当する久保彩のファシリテーションで、プログラムの内容を先取りしてご紹介いただきました!


【スピーカー】

教育者・哲学研究者 近内悠太氏
株式会社フライヤー 執行役員CCO 久保彩 氏

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利他とセルフケアは両立できない?

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久保彩氏(以下、久保):近内さんの「心を整える哲学の部屋」という講座は、哲学を知らない方でも参加いただけるように一般の書籍を中心にずっとやっていただいていて、今回で8回目になります。ずっと続けられている中で近内さんにとっての変化はありますか?

近内悠太氏(以下、近内):ある意味僕自身のセルフケアにもなっていますね。僕は書いたり話したりする仕事なので、色々と考えるものがあるんですが、それを言葉にして共有できる場、自分が今考えていることをみんなと一緒に物語る場になっていると思います。
4冊のテーマ書籍を中心に、みんなはどう考えたか、読んだかを語ると、自分の心がわかってくるんです。「私は本のこの部分をこう捉えたけど、みんなはそう捉えるんだ」というようにより自分というものが見えてくる。僕に限らず受講生の皆さんもそうだと思いますね。

久保:まさにその「セルフケア」というテーマが今回の講座とセミナーのタイトルに入っているんですが、参加者の皆さんの声を拝見してみると、「利他」と「セルフケア」を両立できないと考えている方もいらっしゃるようです。

近内:利他とセルフケアが同時に起こることはありますよ。具体的には大切なものが入れ替わった時です。どういうことかと言うと、基本的に僕の中では、「ケア」とは「他者が大切にしているものを共に大切にすること」で、「利他」とは「自分が大切にしているものよりも、他者の大切にしているものを優先すること」と定義しています。例えば、あるものを大切にしていたとして、他の人がそれを自分以上に必要としていたから手渡した。最初は自分が損したと思うかもしれない。でもあげた後に「実は自分はそれ以上にその人のことを助けたかったんだ」「自分は本当はこういうことを大切にしたかったんだ」と気づくこともあると思うんです。

久保:なるほど。わかりやすい例で言うと、子どもに対して色々なケアをしていくという行為を通して、実は自分自身がその時間ですごく癒されているというようなことでしょうか?

近内:その言い方だと少し微妙なラインがあって。自分を癒す、セルフケアという意識的な目的のために誰かをケアすることって僕は倫理的じゃないと思うんですよね。助けるつもりなんかなかったのに、思わずやっちゃって、結果的に自分自身の心に気づく、という偶発性や驚き・発見があるものかなと。

久保:近内さんの言われるセルフケアの発動条件は、意図していないものだし、気づかないまま流しているかもしれないものでもあるということですね。

近内:そうですね。だから外からの入力に対する感度を上げることが大事だと思っているんです。僕が思っている人間観で「私の行為の原因は私の外部にある」というものがあって。例えば、誰かと目が合ったから挨拶する。普段挨拶をするぞ、と思って生きていないじゃないですか。相手も相手で、僕の存在を認識したことに対しての反応として挨拶しているんですよね。

凧揚げで言うと風が吹いたタイミングを見極めて凧を揚げるというように、外部からの入力に対して適切な反応を返すこと、心の命じる方に進んでいくことが必要だと思っています。

なぜ今セルフケアが必要なのか

久保:今回の講座では、本日お話いただいた「利他」と「セルフケア」についてみんなで考えるというのがテーマだと思うんですが、改めてなぜ今このテーマなのか、ということをお伺いしてもよろしいでしょうか。

近内:それは簡単で、現代に救いがないからですよ。これだけ清潔で快適な現代なのに、救いと慰めだけが無い。それに対して、例えば宗教や神話とかって僕たちに死後の世界がある、という保証をしてくれていたんです。今自分の環境がとても不遇で辛かったとしても、今一生懸命生きることによって来世で報われます、というような信憑、約束がありました。でも今の僕たちはそれを迂闊に信じられないし、心の拠り所や生きるためにすがれるものがないんですよね。生きるよすがが無い。もちろん昔に比べれば生き物としての生存率は上がっているんですが、心だけが今本当に救いがない状態だと思っています。

久保:そんな中での1つのヒントが、利他とセルフケアの構造を見ていくということなんですね。

近内:と言うか、もうケアしかやれることがないと思っています。

久保:今回4冊の本をピックアップいただきましたが、なぜこの本なのか、というところをお話いただければと思います。1冊目の『超人ナイチンゲール』はとても面白そうな本ですよね。

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近内:この本はとてもロックで、ナイチンゲールもとてもロックなので、勢いをつけるためにもDAY1にこの本を置いてみました。

久保:DAY1で勢いをつけて、次は東浩紀さんの『訂正する力』ですね。東さんの本の中では比較的カジュアルに読める本ですよね。

近内:そうですね。非常に現代的な問いがあって、今の世の中を見た時にモヤモヤしているものが「そういうことだったのか」となる本だと思います。

久保:今回、セルフケアを取り上げる上で「一貫性の呪縛」ということを以前言われていましたが、それがこの本で少し理解できるという感じでしょうか。

近内:そうですね。DAY2〜3で本日お話したような内容が本格的に出てくるかなと思います。

久保:DAY3が近内さんの『利他・ケア・傷の倫理学』で、まさに「自己変容」というのがキーワードになっている本ですね。そして最後のDAY4で取り上げるのが平野啓一郎さんの『マチネの終わりに』。こちらだけ小説ですね。

近内:『マチネの終わりに』にこういうセリフがあるんですよ。「人は変えられるのは未来だけだと思い込んでいる。だけど実際は未来は常に過去を変えているんです。変えられるとも言えるし、変わってしまうとも言える。過去はそれくらい繊細で感じやすいものじゃないですか?」
大したことないと思っていた出来事が、今となってはあれが自分を変えてくれた大きな出来事だった。なんであの時は気づかなかったんだろう。つまり、今の出来事によって過去の意味合いが変わったわけですよね。これを自分の人生をもう1回振り返りつつ、皆さんで味わいたいなと思っています。出会い直す、ということです。

4冊の本で共通言語をつくる

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近内:なんで本を4冊置くかというと、共通言語をつくるためなんですよ。セルフケアって本当の意味では一人じゃ無理なんです。同じ場所に居合わせて、自分を物語ったものを聞き届けてくれる人がいなきゃいけなくて。セルフケアをお互い触発するためには、やっぱり共通の本を同じタイミングで読むというのが一番効果的だと、講座をやりながら思うようになりました。

久保:確かに景色や物語を共有しないと、概念の理解は進まないし共通認識ができないと思います。それを色々な書籍で進めていくという感覚を皆さんに持ってもらうということですね。

近内:そうですね。僕はいつも最後のテーマ書籍は文学作品にするんですけど、共通理解の「こう理解しなきゃいけない」って凝り固まってしまう危険性を文学作品によってもう一度開くんです。DAY1〜3まで共通言語を作った上で、最後は皆さんそれぞれの場所に行きましょうと。

「この本で書かれていることってこういう理解で合っていますか?」と僕に聞く人がいるんですけど、別にテストがあるわけじゃないので、本を鏡に自分が何を感じたかを言葉にすればいいと思っています。

久保:そうは言っても言葉が出てこない時ってありますよね。それを無理に言わなきゃいけないということはないですよね。

近内:そうです、言葉にならない瞬間はそれを味わえばいいんです。色々な人の言葉に触れてみると、だんだんとこういうことかなというのが出てきて、それを口に出してみることで自分の表現になっていくんですよね。

久保:ありがとうございます。では最後に、講座を受講するか迷っている方へのお声がけだったり、こういう場所にしたい、こういう人に来てほしいというものがあったらお伝えいただけますでしょうか。

近内:大学のサークルとゼミの間のような場所になっている気がします。要は有志で集まっているんだけど、読書会だからちゃんと勉強もしたいみたいな。
前回の受講生の方のアンケートでも、一人だったら読まなかったかもしれない本に出会えた、このタイミングでこの本を読むきっかけがあってよかった、ということを言ってくれる方も多くて。今回の本もすごく現代的な問いだと思うので、ぜひ皆さんで一緒に読めるといいかなと思っています。

久保:本について語るのは苦手という方も、4ヶ月間他の受講生の方や近内さんが話しているのを聞いているうちに、話せる言葉が出てきたりしますので、ぜひこの機会にご参加いただけると嬉しいです!


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近内悠太(ちかうち ゆうた)
1985年生まれ。教育者・哲学研究者で、リベラルアーツを主軸にした統合型学習塾「知窓学舎」講師。専門はウィトゲンシュタイン哲学。
デビュー著書は『世界は贈与でできている:資本主義の「すきま」を埋める倫理学』(第29回山本七平賞 奨励賞、紀伊國屋じんぶん大賞2021 第5位/2020年3月13日発売)。


久保彩(くぼ あや)
株式会社フライヤー  執行役員CCO(Chief Customer Officer) 
カスタマーエンゲージメントDiv ゼネラルマネジャー

大学卒業後、大手メーカーにてシステム開発の企画・開発・PJマネジメントに携わる。その後、総合系コンサルティング・ファームで大手企業の新規事業/新規サービスの企画・立上・展開を担いながらMBAを取得。2020年よりフライヤーの新規事業担当 執行役員に就任。読書の新しい価値を追求するコミュニティflier book labo、本から深く学ぶflier book camp企画運営責任者。
2023年1月よりカスタマーサクセス責任者兼務。
2024年3月よりCCO就任。


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